パナマ文書 日本の個人は約230人か 不透明な運用も | NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160510/k10010515421000.html
「パナマ文書」の問題を報じた各国の記者で作る団体は、文書に記載されたタックスヘイブンにある法人21万社余りについて、実質的な所有者などの名前を公表しました。この中に、日本に住所がある日本人とみられる個人およそ230人が含まれていたほか、日本企業もおよそ20社ありました。
ICIJ=国際調査報道ジャーナリスト連合は、日本時間の午前3時すぎ、パナマ文書に記載されていたタックスヘイブンにあるおよそ21万4000社の法人について、実質的な所有者や株主の名前をホームページで公表しました。
この中には、日本に住所があり、氏名から日本人とみられる個人がおよそ230人含まれていたほか、日本の企業もおよそ20社ありました。
このうち連絡先が判明したおよそ50の個人や企業に対し、タックスヘイブンの法人との関わりなどについて尋ねたところ、海外の取引先への出資や海外で行った事業の税負担を軽くするために合法的に利用していると回答したところがほとんどでした。
ただ、中には中国の国営企業の幹部から重油の取引を仲介する法人の設立を持ちかけられ、仲介手数料を受け取る見返りに幹部に裏金を渡す約束をしていたというケースもありました。
また、名前を公表されたものの、「全く心当たりがない。勝手に名義を使われた可能性がある」などと話す個人や企業も複数あり、タックスヘイブンにある法人の実態の不透明さも浮かび上がりました。
“海外での事業展開に必要”
タックスヘイブンに法人を設立していた企業の多くは、海外で事業を展開するのに必要だったと説明しています。
IT関連のベンチャー企業で税負担を軽くするためにペーパーカンパニーを設立する業務を担当していたという元幹部社員の男性は、以前、バージン諸島やケイマン諸島などに9つの法人を設立し、パナマ文書に名前が載ったということです。男性は「現地に行かなくても、弁護士事務所などを通せば送られてきた書類へのサインなどで簡単に設立できた。タックスヘイブンの法人口座に海外事業での売り上げを入れれば、税金がほとんどかからず、海外でのM&Aなどの新たな企業活動に資金を回すことができた」と話しています。
また、日本企業が中国での事業で抱えるリスクを減らすために、タックスヘイブンの法人を利用したケースもありました。
東京のヘアサロン運営会社は先月、中国の北京にオープンしたヘアサロンを運営するため、去年イギリス領アンギラに法人を設立していました。会社の担当者は「今後、日中関係が悪化したときにデモなどで襲撃されることがないよう、日本の企業と分からなくすることが目的だった」と説明していて、租税回避が理由ではないとしています。
運用に不透明な点も
パナマ文書で氏名を公表された人への取材から、タックスヘイブンの法人は代行業者を通じて比較的に簡単に作れる一方、運用などに不透明な点もあることが見えてきました。
FX取引の自動売買システムを国内外で販売していたという男性は、5年ほど前にインド洋の島国セーシェルにペーパーカンパニーを設立したということです。インターネットで香港の代行業者を通じて20万円ほどの費用で設立し、法人の代表者を別人の名義にする制度を利用して自分の名前が表に出ないようにしたということです。
男性は「海外での売り上げを国内に戻すと為替手数料や税金などがかかるため、タックスヘイブンを使った。違法行為はなく事業を成功させるためだった。法人はメールでのやり取りで簡単にできた」と話しています。
男性は海外での売り上げが伸びなかったことなどから、同じ代行業者に法人を清算するよう依頼したということです。ところが公開されたパナマ文書によりますと、男性が清算したはずのペーパーカンパニーはその後、別の人物が所有していたことが分かりました。男性は「代行会社が勝手に転売したかもしれない。信じられないし気味が悪い」と話しています。
インターネット上でこの男性が利用したのと同じような代行業者を探すと、香港などに数多く見つかります。こうした業者のホームページには税率の低さがアピールされ、料金表や手続き方法の解説が載せられています。
NHKが複数の代行業者に電話で問い合わせたところ、いずれも日本語で担当者が応対し、このうちの1社は「メールのやり取りで書類にサインして入金し、現地の当局に書類を提出すれば数日後にはタックスヘイブンに会社を作ることができる」と説明していました。
最近は、タックスヘイブンとして有名になったケイマン諸島よりも、セーシェルやアンギラなどを選ぶ顧客が増えているということです。ただ、パナマ文書の問題を受けて口座を開く際の銀行の審査が厳しくなっていて、正当な必要性がなければ開設はできない状況になっているということです。
中国企業に裏金を約束
中国の国営企業の幹部に裏金を渡す約束で、タックスヘイブンに法人を作ったとするケースもあります。
西日本で貿易関連会社を営む男性によりますと、5年前、中国の国営企業の幹部に頼まれて、ロシアの企業から重油を購入する取り引きを仲介するペーパーカンパニーをバージン諸島に作ったということです。幹部とは、中国の国営企業からこのペーパーカンパニーに支払われる仲介手数料の中から月に数千万円を裏金としてキックバックする約束だったということです。しかし、重油の取り引きが一向に行われなかったため、男性はペーパーカンパニーを清算したということです。
心当たりがないケースも
名前を公表されたうち、タックスヘイブンにある法人の株主とされた個人や企業の中には「なぜ載っているのか心当たりがない」として、困惑するケースも出ています。
このうち、東京都内でクリーニング店を営む男性は「店も私個人も海外との取り引きはありません。いったいどこからそういう話が出たのかが不思議です」と話しています。
また、神奈川県の70代の男性は「会社を作ったことも出資したこともない。海外で仕事をしていた期間が長かったので、勝手に名刺の名前を使われたのかもしれない」と話しています。
さらに東京の塾経営会社も「確認のために社内調査をしたが、全く事実はなかった。身に覚えのない話だ」と説明しています。
専門家 「国際的に情報交換を」
国税庁の元幹部で国際税務に詳しい川田剛税理士は、最近のタックスヘイブンを巡る状況について、「インターネットで簡単に法人を設立したり、買ったりできるようになり、活用する企業や個人が以前に比べ大きく増加している。タックスヘイブンを活用しても制度にのっとって申告をしていれば問題はないが、一部では脱税やマネーロンダリングの温床になりかねない。各国の税務当局は対策を進めているが、悪質な租税回避をすべて防ぐことはできず、いたちごっこのような状況になっている。国際的に情報交換を進める必要がある」と指摘しています。
そのうえで、「今回のパナマ文書のように情報が出ることは、これからも続くだろう。情報が公開されることが悪質な租税回避の抑止につながるのではないか」と話しています。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160510/k10010515421000.html
「パナマ文書」の問題を報じた各国の記者で作る団体は、文書に記載されたタックスヘイブンにある法人21万社余りについて、実質的な所有者などの名前を公表しました。この中に、日本に住所がある日本人とみられる個人およそ230人が含まれていたほか、日本企業もおよそ20社ありました。
ICIJ=国際調査報道ジャーナリスト連合は、日本時間の午前3時すぎ、パナマ文書に記載されていたタックスヘイブンにあるおよそ21万4000社の法人について、実質的な所有者や株主の名前をホームページで公表しました。
この中には、日本に住所があり、氏名から日本人とみられる個人がおよそ230人含まれていたほか、日本の企業もおよそ20社ありました。
このうち連絡先が判明したおよそ50の個人や企業に対し、タックスヘイブンの法人との関わりなどについて尋ねたところ、海外の取引先への出資や海外で行った事業の税負担を軽くするために合法的に利用していると回答したところがほとんどでした。
ただ、中には中国の国営企業の幹部から重油の取引を仲介する法人の設立を持ちかけられ、仲介手数料を受け取る見返りに幹部に裏金を渡す約束をしていたというケースもありました。
また、名前を公表されたものの、「全く心当たりがない。勝手に名義を使われた可能性がある」などと話す個人や企業も複数あり、タックスヘイブンにある法人の実態の不透明さも浮かび上がりました。
“海外での事業展開に必要”
タックスヘイブンに法人を設立していた企業の多くは、海外で事業を展開するのに必要だったと説明しています。
IT関連のベンチャー企業で税負担を軽くするためにペーパーカンパニーを設立する業務を担当していたという元幹部社員の男性は、以前、バージン諸島やケイマン諸島などに9つの法人を設立し、パナマ文書に名前が載ったということです。男性は「現地に行かなくても、弁護士事務所などを通せば送られてきた書類へのサインなどで簡単に設立できた。タックスヘイブンの法人口座に海外事業での売り上げを入れれば、税金がほとんどかからず、海外でのM&Aなどの新たな企業活動に資金を回すことができた」と話しています。
また、日本企業が中国での事業で抱えるリスクを減らすために、タックスヘイブンの法人を利用したケースもありました。
東京のヘアサロン運営会社は先月、中国の北京にオープンしたヘアサロンを運営するため、去年イギリス領アンギラに法人を設立していました。会社の担当者は「今後、日中関係が悪化したときにデモなどで襲撃されることがないよう、日本の企業と分からなくすることが目的だった」と説明していて、租税回避が理由ではないとしています。
運用に不透明な点も
パナマ文書で氏名を公表された人への取材から、タックスヘイブンの法人は代行業者を通じて比較的に簡単に作れる一方、運用などに不透明な点もあることが見えてきました。
FX取引の自動売買システムを国内外で販売していたという男性は、5年ほど前にインド洋の島国セーシェルにペーパーカンパニーを設立したということです。インターネットで香港の代行業者を通じて20万円ほどの費用で設立し、法人の代表者を別人の名義にする制度を利用して自分の名前が表に出ないようにしたということです。
男性は「海外での売り上げを国内に戻すと為替手数料や税金などがかかるため、タックスヘイブンを使った。違法行為はなく事業を成功させるためだった。法人はメールでのやり取りで簡単にできた」と話しています。
男性は海外での売り上げが伸びなかったことなどから、同じ代行業者に法人を清算するよう依頼したということです。ところが公開されたパナマ文書によりますと、男性が清算したはずのペーパーカンパニーはその後、別の人物が所有していたことが分かりました。男性は「代行会社が勝手に転売したかもしれない。信じられないし気味が悪い」と話しています。
インターネット上でこの男性が利用したのと同じような代行業者を探すと、香港などに数多く見つかります。こうした業者のホームページには税率の低さがアピールされ、料金表や手続き方法の解説が載せられています。
NHKが複数の代行業者に電話で問い合わせたところ、いずれも日本語で担当者が応対し、このうちの1社は「メールのやり取りで書類にサインして入金し、現地の当局に書類を提出すれば数日後にはタックスヘイブンに会社を作ることができる」と説明していました。
最近は、タックスヘイブンとして有名になったケイマン諸島よりも、セーシェルやアンギラなどを選ぶ顧客が増えているということです。ただ、パナマ文書の問題を受けて口座を開く際の銀行の審査が厳しくなっていて、正当な必要性がなければ開設はできない状況になっているということです。
中国企業に裏金を約束
中国の国営企業の幹部に裏金を渡す約束で、タックスヘイブンに法人を作ったとするケースもあります。
西日本で貿易関連会社を営む男性によりますと、5年前、中国の国営企業の幹部に頼まれて、ロシアの企業から重油を購入する取り引きを仲介するペーパーカンパニーをバージン諸島に作ったということです。幹部とは、中国の国営企業からこのペーパーカンパニーに支払われる仲介手数料の中から月に数千万円を裏金としてキックバックする約束だったということです。しかし、重油の取り引きが一向に行われなかったため、男性はペーパーカンパニーを清算したということです。
心当たりがないケースも
名前を公表されたうち、タックスヘイブンにある法人の株主とされた個人や企業の中には「なぜ載っているのか心当たりがない」として、困惑するケースも出ています。
このうち、東京都内でクリーニング店を営む男性は「店も私個人も海外との取り引きはありません。いったいどこからそういう話が出たのかが不思議です」と話しています。
また、神奈川県の70代の男性は「会社を作ったことも出資したこともない。海外で仕事をしていた期間が長かったので、勝手に名刺の名前を使われたのかもしれない」と話しています。
さらに東京の塾経営会社も「確認のために社内調査をしたが、全く事実はなかった。身に覚えのない話だ」と説明しています。
専門家 「国際的に情報交換を」
国税庁の元幹部で国際税務に詳しい川田剛税理士は、最近のタックスヘイブンを巡る状況について、「インターネットで簡単に法人を設立したり、買ったりできるようになり、活用する企業や個人が以前に比べ大きく増加している。タックスヘイブンを活用しても制度にのっとって申告をしていれば問題はないが、一部では脱税やマネーロンダリングの温床になりかねない。各国の税務当局は対策を進めているが、悪質な租税回避をすべて防ぐことはできず、いたちごっこのような状況になっている。国際的に情報交換を進める必要がある」と指摘しています。
そのうえで、「今回のパナマ文書のように情報が出ることは、これからも続くだろう。情報が公開されることが悪質な租税回避の抑止につながるのではないか」と話しています。